Tab-PE 公式デモの再現と下流 utility の分析

再現と下流 utility の分析(要約)

Tab-PE 公式デモの再現と下流 utility の分析

Microsoft の公式実装 microsoft/DPSDA に含まれる Tabular Private Evolution (Tab-PE) の公式デモを固定環境で再現し、続けて「DP 合成データの 下流 utility は何で決まり、どこまで上げられるか」を追加実験で調べた記録である。本ページは 要約。数値の詳細・図・条件は各補足タブに置く。

要旨

1. 背景と問い

Private Evolution (PE) は基盤モデルの推論 API のみで DP 合成データを作る枠組みで、Tab-PE は その表形式版(GPU・学習・モデル推論なし、CPU のみ)。合成データは各反復で「埋め込み空間の 最近傍ヒストグラム」に Gaussian ノイズを足して DP を保証し、票の多い候補を選択・変異させて 進化する(🧩 Tab-PE)。

2 つを問うた。(Q1) 公式デモは再現可能な形で動くか。(Q2) 生成される合成データの下流 utility は何で決まり、どこまで上げられるか。

2. 再現(Q1)— 要約

公式 example/tabular/ デモを原則無改変で実行した(SCM 3 prior、実データ 4 種、XOR)。主な 下流分類精度(synthetic-train → real-test、ε=1、分類器 tabicl):

デモ acc macro F1 補足
Breast Cancer 91.86 91.44 反復で 52%→92% と改善、進化が有効に機能
SCM (nn / tree / rff) 85.48 / 66.68 / 61.08 prior で下流精度が大差。順位は 3-seed でも安定(値は単一 run)
Adult 80.94 70.78 不均衡二値、acc と macro F1 が乖離
Person Activity 64.04 36.52 多クラス不均衡、少数クラスが弱い
XOR 1/2/3 特徴(tabicl 代替) 99.8 / 99.0 / 96.9 高次相関ほど再現が難しくなる傾向

全実験の一覧・判定・WSD・実行条件は 🧪 実験📈 詳細結果。 いずれも公式公表値との比較を行っていないため EXECUTED(§5)。

3. 下流 utility のレバーは何か(Q2)

Adult を軸に、上限との距離と「何を変えると utility が動くか」を調べた。詳細な表・図は 🧬 追加分析

上限(実測). 同じ実 test に対し、実データ 1000 件で学習した tabicl は acc 84.0、実データ 全量の xgboost は 86.4、多数派ベースラインは 75.8。我々の DP 合成(~80)は同サイズ上限に accuracy で ~3〜4 点、macro F1 で ~7 点届かない。

埋め込みはレバーでない. 公式のほかに 3 種の作り込んだ埋め込み(capital 分解+fnlwgt 低減、 education 整合 penalty、公開特徴量エンジニアリング)を 3 seed で試したが、下流 utility に有意な 改善はなく(robust_numeric は ε=1 で誤差内の微増、他 2 種は悪化)、狙った列(capital)の分布 忠実度は上がるが utility には結びつかない。とくに公開 FE 版は、分類器に良い特徴量(ビン化・列 削除)が Tab-PE の距離では逆効果——最近傍選択が使う信号を削る——という転用しやすい教訓を示した。

ε はレバー、ただし頭打ち. ε を 0.5→∞ と振ると acc は 79.98→82.5 と上がり、AUC・macro F1 ほど 恩恵が大きい。だが収穫逓減し、ノイズを完全に切った ε=∞(PE 上限)でも acc ~82.5% で、実データ 上限 84% には届かない。

ギャップの分解.

実データ1000 → 実test        84.0%   同サイズの上限
   ↑ ~1.5点:PE 生成機構の残差(ε でも埋め込みでも埋まらない)
PE ε=∞(ノイズなし)          82.5%   PE の上限
   ↑ ~1.8点:DP ノイズ分(ε を上げると埋まる)
PE ε=1(既定)               80.7%

(この梯子は ε スイープの単一 seed 系列の値。§2 の Adult 80.94 は公式デモの単独 run、埋め込み 実験の 3-seed ベースラインは 79.89 で、いずれも別条件の同一データ点である。)

なぜ埋め込みが効かないか. Tab-PE の埋め込みは「表現」ではなくマッチングの物差しで、 評価(tabicl・WSD)は生の min-max 空間で行われる。素直な min-max はその評価空間と一致しており、 そこで非公開データに合わせると utility が上がる。「意味的に良い」変換は評価空間から離れた別空間で 合わせるため、高 ε ほど忠実に最適化されて逆に悪くなる(ノイズが低 ε ではその歪みを隠す)。 主因は capital のバイナリ presence 次元による過大重み付けで、これを外すと大半が回復することを 診断で確認した(🧬 追加分析)。

4. 知見のまとめ

  1. Tab-PE 公式デモは固定環境で end-to-end 実行でき、評価基盤(記録・集計・レポート)を整えた。
  2. DP 合成の下流 utility を詰めるレバーは埋め込みではなく ε。ただし ε も頭打ちで、生成機構 由来の残差は ε でも埋め込みでも消えない。
  3. Tab-PE の埋め込みは「評価空間と同じ近さ」であるべき。ノイズを切ると素直な min-max が最良 (ε=1 では変種と誤差内)。「気の利いた」工夫は評価空間から離れて不利で、目的(income)に寄せる 工夫は DP リークになるため、安全に賢くする余地は狭い。
  4. データ特性の知見:SCM は prior で下流精度が大差だが seed に対し安定。不均衡データ(Adult・ Person Activity)は accuracy と macro F1 が乖離し、少数クラスの再現が弱い。XOR は次数が上がる ほど再現が難しくなる。
  5. 別データでの確認(Bank・Dry Bean、#49/#55):公式デモ外のデータに チェックリスト(#25)を 適用。同サイズ上限との差はタスクの分離しやすさで決まる:Dry Bean(均衡・分離しやすい 7 クラス) は DP 合成が上限にほぼ一致(acc 90.1 vs 91.4)、Bank(88% 多数派の二値)は accuracy が無意味で macro F1 は一致・AUC のみ ~4 点下、Adult(重なる不均衡二値)は acc で ~4 点下。不均衡データは accuracy でなく macro F1・AUC で評価すべき📈 詳細結果)。

5. 制約と再現性

6. 補足(詳細)

References